個人事業主の社会保険被扶養者認定基準

まとめ

社会保険の被扶養者(扶養される人)の認定基準は、年間収入が130万円未満であることなどが要件となっています。この認定基準は、被扶養者となる人が自営業者(個人事業主)である場合にはどう考えればよいのでしょうか。

(結論)

・事業所得の総収入額から、直接的必要経費を引いた額が130万円未満であるかどうかで判定する。
・直接的必要経費とは所得税法で定められている必要経費より狭い概念である。
・原材料代は直接的必要経費となり、減価償却費は直接的必要経費にならない。
・その他の費用の取扱いは健康保険組合により異なる。厚生年金については日本年金機構が判断するが基準は不明。

基本的なルール

日本年金機構「減価償却費は控除できない」

厚生年金の被扶養配偶者についての扶養認定に関する細かいルールは日本年金機構が決めることとなっています(国民年金法7条2項、国民年金法施行令4条)。

明文化されたルールは見当たりませんでしたが、以下のQ&Aがありました。

「自営業者等収入がある者の健康保険被扶養者の認定について(健康保険法第 3 条第 7 項、健康保険法施行規則第 38 条)

質問回答(太字、赤字、下線は筆者強調)
認定対象者が自営業を行っている場合、直近の確定申告書のコピーにより「収入金額」から「当該遂行のための必要経費」を控除した額 で、健康保険被扶養者の認定の可否を判断しています。 確定申告書の収支内訳書の経費に計上される「減価償却費」について、「当該遂行のための必要経費」に該当するのか否かの判断について、 ご教示ください。 健康保険の扶養認定基準については、昭和 52 年 4 月 6 日保発第 9 号・庁険発第 9 号より、収入基準を定めているところであり、収入の算定については、昭和 61 年 4 月 1 日庁保険発第 18 号と同様の扱いをしているところです。 通知において、年間収入とは、「認定対象者が被扶養配偶者に該当す る時点での恒常的な収入の状況により算定することと」されており、 また、収入の算定に当たっては、「恒常的な収入のうち資産所得、事業所得などで所得を得るために経費を要するものについては、社会通念上、明らかに当該所得を得るために必要と認められる経費に限りその実額を総額控除し、当該控除後の額をもって収入とすること」とされています。 ご照会の減価償却費の計算の基となる資産に対する支出が、必要な経費かどうか具体的な内容についての記載がないため一概に判断できませんが、仮に必要な経費と認められる場合においても、確定申告書上に項目がある減価償却費は、社会通念上明らかに当該所得を得るために必要と認められる経費の実額ではないため、恒常的な収入から控除することはできません。 確定申告書のコピーが添付されている場合は、控除額の所得を判断するのでなく、総収入から売上原価を差し引いた項目を基準とし、そこから社会通念上、明らかに当該所得を得るための必要経費を控除した額により判断してください。 (なお、当該所得を得るための必要経費については、事業等が異なるため、一律な整理には馴染みませんが、必要経費について疑義が生じた場合は、実態を聞き取ったうえで、具体的事例に基づきご照会ください。)
(出所)日本年金機構ウェブサイト「主な疑義照会と回答について」の「厚生年金保険 適用(PDF)」より


これは全く意味がわかりませんでした。「減価償却費は、社会通念上明らかに当該所得(=事業所得など)を得るために必要と認められる経費の実額ではない」とあるのですが、初耳です。減価償却費は所得税法第37条で必要経費に含まれると明確に定められているので。。これらは違う言葉だと解釈するしかなさそうです。

勝手な想像ではありますが、給与収入とは異なり事業所得が「一律な整理に馴染」まないということなので、事業所得が正しく申告されないことを危惧しているのでは、と思います。そのことによる不公平よりも、日本年金機構の人が不透明なルールにより個別に判断することの弊害の方を心配すべきようにも思いますが。。

各健康保険組合のルール

健康保険組合に加入している場合には、各健康保険組合において認定を行います。

調べてみると、細かいルールが定められておりました。以下は○が収入額の算定にあたり控除が認められるもの、△が個別に判定するもの、×が認められないものとなっています。△としている理由として『「収支内訳書」の「事業所住所」と「自宅住所」が同一の場合、用途が混在している可能性がある』などと書いてありました。そのような場合、所得税法上は合理的な割合で按分して必要経費を計上する必要がありますので、これを経費として認めないのは「あなたが脱税している可能性がある」と言っているのと同じです。

また、どの組合も直接的必要経費(扶養認定にあたり、総収入金額から控除できる経費)の例として「ケーキ屋さんの小麦粉と卵」を挙げていました(何かネタ元がありそうですが見つかりませんでした)。なお、小麦粉代や卵代だって自家消費分と混在している可能性がありますが、誰もその心配はしないようです。

科目リクルート健康保険組合IHIグループ健康保険組合電通健康保険組合
給料賃金×
外注工賃
×
減価償却費×××
修繕費
消耗品費

荷造運賃
×
水道光熱費

もっとシンプルなルールを

この事業所得の扱いについては、厚生労働省は過去に会計検査院から指摘を受けています。

国民年金の第3号被保険者に係る種別変更の届出の適正化について(会計検査院 平成16年度決算検査報告)

会計検査院は、平成11年に、国民年金の第3号保険者について「事業所得等の総収入額から控除する必要経費の範囲を明確にしていなかった」ことなどにより、納付すべき国民年金の保険料を納付していない者が「多数見受けられた」との指摘をしました。厚生労働省はその後5年近く同じ指摘を受け続け、平成16年になってようやく次のような措置を講じました(()部は筆者追記)。

『同庁(=社会保険庁)では(平成)17年3月に、地方社会保険事務局長に通知を発し、事業所得等の総収入額から控除する必要経費の範囲について、当該所得を得るための人件費、修理費、管理費及び物件費などの社会通念上明らかに必要と認められる経費に限ることとし、その実額を証明するものを確認することとする措置を講じた。』

なお、当時の通知を見ても、上記を通知したとするものは見つけることが出来ませんでした。いずれにせよ、少なくとも現状では「減価償却費は認めない」という以外のルールは明確ではありません。

事業所得の額で判断する、あるいは事業をしている場合は対象外としてしまうというようなシンプルなルールにすることが望まれます。